虚木零児の仮説置き場

虚木零児が他人の行動に仮説を立てるブログ

俺たちの発言は大いなる文脈の中で読まれる

虚木零児です。

ポリコレに配慮した作品が売れているそうです。意識高い感じの人が言ってました。

表現規制反対とか言って、ポリコレを目の敵にしている人はこの現実をちゃんと受け止めよう」

まあ、元記事では制作への女性参加と劇中の女性の描写と売上のお話なので、ポリコレにまで拡大するのは気が逸ってる感じしますが、いいでしょう。別にいいんですよ。読み間違い自体は誰にでもあることだし、自分の好きな理念が肯定されて小躍りしたい気持ちになるのもわかります。

ただ、この情勢でそういう話する事自体、無謀だなと思うだけで。

 元記事はこちら。

gigazine.net

記事の趣旨としては下記の二点。

  • 制作費別に分けた時、プレス資料に最初に男性がクレジットされている作品群より、女性がクレジットされている作品群の方が興行収入の平均が高い
  • 興行収入が一定以上(10億ドル以上)の作品はいずれもベクデルテスト(作中の女性の取扱についてのテスト)に合格している

なるほど。

「大多数から受け入れられている作品は、特定のカテゴリの人(今回は女性)が見ていてもストレスを感じさせたりしないのだ、相応の理由があるのだ」という意見は別に納得できないほど突飛なものでもありません。普段ポリコレの話をしては反発を食らっていたところに、肯定的な流れでがポリコレの真価だと鼻息が荒くなるのもわからなくはない。だからこそ、冒頭の発言が「アンチポリコレ」に袋叩きに合うのが納得できないのも無理からぬ……いや、「受け止めよう」とか挑発しておいて反論食らって意味わかんないはちょっとないですね。ないない。

作品が受けるのに相応の理由があるように、今回の発言が燃え上がるのにも相応の理由があります。その一つに「ポリコレは基本的に作品否定の文脈で使われてきた」という現実があります。昨今、慣習的に「この作品はなってない、ダメだ」というパンチの理由に使われてきたポリコレを「配慮ができてる作品は売れている」で補強したことで「なってない作品は売れてない=駄目」の烙印を押す文章だと読まれてしまうのです。発言者にそういう意図があろうと、なかろうと。

もっとも、発言した本人にそういう意思があった、なかったかは大した問題ではありませんよね。昨今のポリコレ界隈を渦巻く情勢がそう読ませるのであり、そのあたりに配慮しない発言をしたら叩かれるのは当然です。いいですか。ハラスメントはやられたら側がハラスメントだと感じたらそれがすべてなんですよ。意識高い感じの人が言っていたでしょう。

その点、元ネタ記事は関連記事に興行収入だけで映画を語るな」っていう記事を持ってきて予防線を張ってますね。こういう感覚は見習っていきたい部分です。

gigazine.net

そもそも、つい最近、聖闘士星矢の新アニメ化に際して、聖闘士全員が男性というのは違和感があるからアンドロメダ瞬を女性に変更しよう。っていう脚本家の判断が批判にさらされていた訳です。

www.sponichi.co.jp

もう、30年も前の作品を現代の価値観で見たら違和感を覚えるのは仕方ない部分だと思うんですよ。再創造と銘打っている以上、現代の価値観に合わせて改変するの不思議ではない。先刻の記事でヒットの必須条項だったベクデルテストだって「最低でも二人の女性が登場するか」っていう項目がある訳で、女性を増やすという判断自体は無理からぬことでしょう。……まあ、ファン心理を無視すれば、という感じですが。

言ってしまえばこれはポリコレへの配慮な訳で、発言者も本件については認識しており「ヒットのためにはポリコレフォローする方が無難だ、と考える時代に入った、という程度の話だと思うんだけど。」と思ってる訳です。

まあ、同じ文章で「製作のセンスがない」と悪びれずに否定してるので人生楽しそうだなって印象しかありませんが。

その変更をセンスがないと言いたいにしては、配慮のない作品は10億ドルまで届かないという現実が突きつけられている記事を絶賛し、そうじゃなくて「売れなくてもいいじゃん」という話に持っていきたいのならそもそも、元記事引用でいらん挑発をするべきではなかったですよね。アンドロメダ瞬が男性だから成り立っていた部分は少なからず消える訳で、アンチと呼ばれている人々が恐れていた展開そのものじゃないですか。大丈夫ですか。現実、受け止められてますか

 

それにしても、ポリティカル・コレクトネスに配慮の足りない作品は売れないという現実が見えてきた今、わざわざポリコレを棒にして作品を叩く人は一体何なのかなという気持ちであります。彼らが棒で叩いている作品は見ない人が大多数とも思えません。であれば、彼らが叩かずとも配慮の足りない作品は見られていなかったはず。

しかも、ポリコレに配慮したからと言って10億ドルが約束される訳ではなく、10億ドル未満に終わる作品も存在しており、エンタメ製作のアドバイスとして適切なのかといえば必ずしもそうではない。実際問題、アンドロメダ瞬を女性にしたことによって、聖闘士星矢が10億ドルを超える大ヒットを飛ばせば万々歳ですが、そうでなければ「余計なことしやがって」としかならない。この時、脚本家は責任取らされるでしょうが、ポリコレで騒ぎ立ててる人たちは気にしないし、責任も取らない。

誰かをぶっ叩いて溜飲を下げたいだけに見えるのは、僕の認知が歪んでいるからなのでしょうか。