虚木零児の仮説置き場

虚木零児が他人の行動に仮説を立てるブログ

抽象化の下手くそな人たち

虚木零児です。

今回のエントリーは「線分AB上を等速直線運動する点P」「摩擦の影響は考えないものとする」という問題文を莫迦にしてきた人たちに送ります。

今週は安全ピンが盛り上がりました。なんなら、まだ盛り上がっていますね。なんていうか、教室に乱入してきたテロリストを撃退する妄想みたいな雰囲気がします。逆上されたり、逆に騒がれたりしたらどうするつもりなんでしょうか。

そんな話の裏で「電車で女性が体調を崩したのに、駆け寄るのは女ばかりで男は誰も近づかなかった!」みたいな話が盛り上がっていました。それに対してリプライで一言「安全ピンで刺されるじゃん」が飛んでるのは味わい深いなあと思います。

通常であれば「痴漢に安全ピンで反撃する」という話から「急病人の看護にいったら刺される」とはならないワケですが、そこら辺りはもう各個人の経験によるところが大きいところではあります。倒れた女性を抱きかかえて助けたらセクハラだ、痴漢だと騒ぎになったと聞いた時に「そんなワケあるかい」と思える人と、「えーそうなんだー」と思う人に分かれるということは理解しておきましょう。

セクハラは憎むべきものだ。根絶しなくてはいけない悪習だ。というのは理解できるところではあるんですが、その一方でセクハラという用語が走りすぎているのではと疑問を覚える場面も多々、見かけます。興味のない異性から食事に誘われるのはセクハラだ。みたいな言説が持て囃されているのを見ると「ああ、人間は面倒くさい生き物だなあ」と思うのも仕方のないことではないでしょうか。

実際のところ、ロクに話もしたことがない、顔見知り程度の相手から「サシでご飯食べませんか」って誘われても「え、それは……」ってなるのは無理からぬ話だし、相手が上司や先輩だったり立場が上の存在だったら、ハラスメントだっていうのもわからない話ではない。だから、興味のない異性から食事に誘われてハラスメントだって憤っている人たちも、実際の経験を聞けば納得できる話である可能性が高いとは思います。

しかしながら「親しくない相手から食事に誘われても警戒する」という話であれば理解される話を「興味のない異性から食事に誘われるのはハラスメント」とか書いてしまえばいらぬ反発を生むのも必定です。親しくない相手と興味のない異性は全く異なる存在ですし、警戒するとハラスメントと感じるも全然違う概念です。

なんでそういう書き方をしてしまうのでしょう。

個人的には抽象化が絶望的に下手くそだからなのかなとは思っています。

白雪姫がポリコレ的にはダメなストーリーだっていう話にしてもそうで、「意識のない白雪姫に口吻した王子」っていう抽象化をすると「白雪姫はダメだ!」っていう話になるんだろうということは想像が付きます。しかしながら、白雪姫を「王子様の愛ある接吻が白雪姫を魔法から解いた」と抽象化してる我々にしてみれば、「善意から行った救助活動であっても、何かしらの規定を超えれば否定されるのだ」と理解せざるを得ません。

実のところ、白雪姫のディティールまでは存じ上げていないので、ネクロフィリアの王子様が白雪姫に欲情した結果、たまたま解除方法を満たしただけなのか、それとも魔女の呪いを聞きつけた王子様が解除の為に自らキスをしたのかまでは僕個人としてはわからないのが実情です。

もし、白雪姫のストーリーが後者で、それを否定しているのであれば、到底受け入れられる提案ではありません。人工呼吸が照れくさい思春期を拗らせたような主張に救命活動を脅かされるのは人類にとっては大変な損失であります。

仮に前者なのであれば、ポリコレ的にダメ*1というのは理解します。であるならば、「意識のない白雪姫に対して欲求を満たすためにキスをした王子様はダメ」と言うべきだし、そういう書き方をしなかったことは伝達ミスを生み出す原因と言えるでしょう。

また同時に、前者を否定するということは、やり方のまずい後者もいくらかは巻き添えを食うのは容易に想像が付きます。巻き添えを食うということは他者の救助は自身の身命を賭して行う行為にならざるを得ず、やはり私個人としては受け入れがたい主張であると言わざるを得ません。仮令、AED使用でセクハラに問われるのはデマだという言説を法曹から必死に流そうとも、反対側でフェミニストが白雪姫を否定している以上は、「服を開けさせることが強制わいせつに問われるのでは?」という恐怖心は一向に薄まらないでしょう。

安全ピンの話にしてもそうで、痴漢とは「わいせつな目的で身体に触れているのが明白で誤認の可能性がない者」であるという認識であればまだわからなくはないものの、実態として「振舞いにケチつけてきたから痴漢」とか「もし当人が痴漢していなくても、痴漢が実在していたなら痴漢」みたいなとんでも理論が展開されてきた現実があり、我々はそれを見てきています。そして、彼ら、彼女らが安全ピンで刺されないまま今日を迎えていることを鑑みれば、現実的には「女性が痴漢と思ったら痴漢」みたいな状況であることは明白です。その部分を理解せず「わいせつ野郎に反撃して何が悪い」と言ったところで「気に入らないヤツを安全ピンで刺して何が悪い」として解釈されてしまって伝わりはしません。

どうすればいいのかと言えば、もはや一朝一夕にどうなるものでもありません。そもそもが痴漢でも何でもない人間が痴漢として扱われている時に、声を上げることなく見殺しにしてきた我々の怠慢が招いた結果なのだと諦めるか、今一度痴漢の定義を再度やりなおして、痴漢でも何でもない人間を痴漢として告発することは大罪なのだという雰囲気を醸造し、痴漢犯罪に対してのスクラムを組み直す他ないのではないでしょうか。

*1:ネクロフィリアに人権がない場合