虚木零児の仮説置き場

虚木零児が他人の行動に仮説を立てるブログ

都合よく自然を利用するな

虚木零児です。

年の瀬も押し詰まってまいりましたね。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。年末が近づいた途端、仕事が急激に忙しくなってきて困りました。聞いてないよ。こんなの。

 

……いいじゃないですか。そんなことは。やはり年末には今年一年を振り返って総括するのが日本的というものです。

という訳で、今回のキーワードです。

「セクハラはチンパンジーでもする」

はあ、そうですか。

こんな場末のブログに来てしまったばかりに、人生を豊かにしない無駄な知識が一つ増えてしまいましたね。ご愁傷様です。まあ、イルカもレイプするって言いますし、チンパンジーならセクシャルなハラスメントぐらいするのかなって感じです。正直な所、学術的なエビデンスが存在するのかは存じ上げませんが、とりあえずこの場は信じておくことにします。

猿がセクハラするからどうしたという話なんですが、この発言はセクハラで攻撃を受けている某を庇い立てする文脈で出てきた物です。なので、発言の意図を汲み取ると「セクシャル・ハラスメントは自然界ならチンパンジーなどにも見られるごくごく自然な行動であり、批判されるには値しない」ぐらいのことを言いたかったのだと想像されます。

……おまえは何を言っているんだ

自然界は結構、残虐です。例えば、女性の連れ子が再婚相手に殺される痛ましい事件がニュースを賑わせることがあるじゃないですか。でも、これってライオンやハヌマンラングールの習性になぞらえるとごくごく自然な行為になんですよね。人としてこの方向性に進むのはどうかと思うのですが。

ただ、はっきりと言っておきたいのは、この手の論理展開って今回のセクハラ擁護おじさんが初めてではありませんからね。意識高い感じの人がLGBT”自然”としたい時も同じようなことを言っていました。「動物界では同性愛的な行動は数多く見られる」みたいなことを、ぬけぬけと。

それじゃあ、群れのボスを強引に蹴落として自分がボスの座に収まるのは許されるって話でいいんですかね? 社会性を持つ動物ではよく見られる行動なんですが。

 

言ってしまえば、この手の論は「自然では」とか「動物界では」とか範囲をやたら広くとっている割に、ごくごく限られた範囲の話を切り取ってきているに過ぎません。なので、ちょっとでも視野を広げると途端に違和を生じてしまいます。動物が同性愛的な行動を取っているのを理由に同性愛が自然なものだとされるなら、オットセイがペンギンにのしかかって腰を振っている以上、異種の生物に欲情して襲いかかるのもまた自然な衝動なのだと言わざるを得ないでしょう。

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言っておきますが、昆虫まで範囲に含めればかなりいろんなことが正当化できますからね。例えば、サムライアリの女王は別種のアリの巣に乗り込んでいき、その巣の女王を殺して成り代わってしまいます。成り変わられたアリの巣はサムライアリの巣となり、以後はサムライアリの女王の世話に従事することになります。人間で言うところの奴隷でしょう。なお、サムライアリは自分たちだけでは集団を維持できない為、別のアリの巣に乗り込んで働き蟻を強奪する習性があります。ズバリ、略奪であります。

ギフチョウのオスは交尾した際にメスの交尾期に粘液を塗りたくって、その交尾器を二度と使えない状態にしてしまいます。人間風に言えば、貞操ですよ、貞操

意識高い人、あるいはセクハラ擁護おじさんは奴隷や略奪、貞操帯を天然自然で見られている風習だからと肯定するのでしょうか。それでいいんですか、人類の皆さん。

いいですか、都合のいいところだけ切り取ればどうとでも言えるんですよ。ゲンゴロウのメスはオスの背中に卵を産み付けます。卵を産み付けられたオスは孵化するまでの間、卵を背負ったまま生活します。父親の育児が問題視されるなか、昆虫が子育てしているなんて微笑ましい話じゃありませんか。

まあ、生まれたら食うんですけどね。子供を。

ゲンゴロウは肉食の昆虫なので成虫になってしまえば外敵が比較的少ない訳です。なので、そこいらに産み付けるよりはオスの背中のがまだ安全なのでしょう。結果として生まれたばかりの子供がいくらか父親に食われるという問題が生じますが、それでもそこいらに産み付けた卵を外敵に食い散らかされるよりかはなんぼか生存確率が高かったのだと推測されます。言ってしまえば、ただ、それだけのことです。

これはつまり人間に言い換えれば、男性が育児せずに仕事にフルコミットして世帯収入を安定させる方が子供の生存率が高かった。とか、そういう話ですよね。同じ昆虫を題材にしたとしても、切り口を変えればどのようにも話は展開できるんです。それだけ自然に生きる生き物たちには様々な側面があるということです。都合よく一側面だけを切り出して論立てしても、別の側面からあっさりと切り崩されてしまうでしょう。

来年からは老いも若いも右も左も、もう少し慎重に論立てしていきたいものですね。