虚木零児の仮説置き場

虚木零児が他人の行動に仮説を立てるブログ

楽しいインボイス制度~オタクがいかに社会に適合できていないか~

虚木零児です。

いよいよインボイス制度が始まるという段になって、反対派が騒々しいわけです。岡本麻弥とかを引っ張り出し、署名36万筆を集めてはいるんですが、世間の反応は割りと冷ややかですよね。正直。

反対派もそれはわかっていると見えて「オタクたちは見て」→「全国民関係ある」へと対象が移っていきましたね。

(あ、なに? オタクは国民じゃないって?)

などと思ってしまうのは僕だけでしょうか。

いやしかし、僕はオタクでも国民でもなければ、免税事業者でもないので、完全に外野の立場なんですが、外から見てる分には随分愉快ですね。外野から彼らの言い分を聞いてたんですけど、まあ、そのなんていうか、完全に作戦ミスで自爆しているとしか思えません。

反対派の訴えの中に以下のようなものがあります。

彼か彼女か知りませんが、とにかくインボイス制度は不公平で問題があるということにしたいのだとは思うんですけど、単純に主張の中自体で矛盾があるんですよね。

負担は最終消費者だが、各事業者の付加価値分だけ納税されるので、消費者には本体価格10000円で到着するものを事業者A~Dで仕入れと生産を繰り返しながら数珠つながりになっているんですよ。

ちなみに言う通り、登場するのは全員が課税事業者で、正直な話をすると今回のインボイス制度では特に影響を受けません。

▲図1.ある取引のサンプル

強いて言うなら、これが課税事業者たちが置かれている状況であり、インボイス登録した人々が今後置かれることになる状況です。ひとまずここは理解しておいてください。

で、これが仮に事業者Cが免税事業者だった場合はどうなるでしょうか。これまでは以下のような状況でした。

利益にしたように見えますも何も利益にしてるし、なっているんですけど、ここは一旦おいていてください。飛ばします。

▲図2.図1.中の一部が免税事業者だった場合(インボイス前)

 

これが、インボイス制度が開始されるとこうなります。

▲図3.図1.の一部が免税事業者だった場合(インボイス後)

消費者は1000円しか払ってないのに! 国への納税額は1300円になっている! だから、これはおかしい!! なるほど。

単純に免税事業者Cが最終消費者として「300円」納めてるだけですよね。これ。

事業者Cが収めた「300円」が事業者A、Bから分担されて納められ、それとは別に消費者が収めた「1000円」が事業者Dから納められるのでそうなる。という話になります。

途切れてるんですよ。取引が。

免税事業者Cから仕入れて、消費者に販売したDの取引と、A→Bと繋いで仕入れたCの取引が繋がっていない。

なんで、こんなことになるかといえば、「適格請求書」でなければ控除を受けられないようになったため。適格請求書は原則「課税事業者」でしか発行できないので、免税事業者との取引が挟まるとその時点で途切れます。

極端な話、Cが始点か終点であれば、特段不思議なことは何もない。事業者Cは仕入先に対しては消費者のように振る舞って、仕入元に対しては免税事業者として振る舞っているというだけのことであります。そもそも、Cは仕入れの控除を受けられない(なにせ納税が免除されている)ので、税金のつながりはここでぷっつり切れるんですよ。今後は。

じゃあ、なんで切られるんだ。って話になるんですよ。どうして、Cに税金として払ったのに、Dは控除を受けられないんだ。そもそも仕入額控除とはなにか?

以下のような言説が有力なようです。

www.freee.co.jp

この場合、商品を実際に購入した消費者と、商品の仕入れを行った事業者とで二重に消費税を納めていることになります。このような二重・三重の課税を避けるために、売上時に受け取った消費税から仕入時に支払った消費税を差し引いて、本来支払うべき消費税額を申告・納税する制度が仕入税額控除です。

A→B→Cの取引ではCからB経由で「300円」、BからA経由で「100円」が受け渡しされている。けれども、BはAを経由して「100円」既に納めているから「300円-100円」で差分の「200円」でいいよ。という理屈です。実際に納税するのはAだけれども、負担しているのはBという建前なので、A経由で収めることになる「100円」が控除の対象になるってことですよね。

逆に言えば「C→D→消費者」の取引だと、今まではDからC経由で「600円」が納税されるからDさんは「400円」でいい。って話になってたんですけど、今回の制度でCさんは「0円」なので、じゃあ、Dさんが丸かぶりですね。っていう話になるんですよ。免税事業者のCは消費税を納めないから。

これは数字が苦手な人のための余談ですが、国が免除されたはずの金を取っているわけではないですからね。あの図だと300円免除されて、300円増えているのでこの2つが同じものに見えるかもしれないですが、これはそもそも全く違うものがたまたま同じ金額になったものです。いや、もしかしたら騙そうとして同じ値段にしているのかも知れないですが、とにかく性格の違うお金なので連動はしません。

計算のできる人は事業者Cが売値「5000円+消費税」だった場合を考えてみるといいでしょう。課税事業者だった場合「500-300=200円」の納税義務があります。免税事業者が免除されるのも同じ。で、実際に国に収められるお金は何円ですか?

そう、1300円ですよね。なぜなら、Cが払った消費税300円と消費者が払った1000円の合算でそこは変動してませんから。DからCに消費税名目で払ったお金は一切関係がないんですよ。

本当にはっきりと覚えておいてほしいんですけど、事業者Cをまたぐと完全におかしな話になるんですよ。A~消費者までの経路トータルで見ると消費者は1000円しか払ってないのに! って言いますけど、B→C→Dだけ切り出して見えるとDは「600円」ないし「500円」も払わされてるのに実際に納税される額は「300円」です。

邪魔なの。免税事業者が。

だから、消費税分値下げしろって話になるんでしょ。お前、元々消費税納めてないんだから、消費税分なくてもいいじゃん。って。

 

ただまあ、同情できない訳じゃないんですよ。

まだまだ新人のイラストレータなんかは知名度も実績もないので、業者に買い叩かれるがお金がないと生きていけないので受けてしまう。みたいなことはあると思います。成功するためには嫌な思いもしなきゃいけない。大手芸能事務所でもあったらしいですからね。そういう話。

「君さあ、まだまだ売れてないし免税事業者でしょ? 消費税も懐に入るんだからここまで下げられるよねぇ?」

みたいな。

こういう人たちが今後は「え、君免税事業者なの? 困るんだよねぇ。課税事業者になってもらわないと。インボイス登録してきて」とか「免税事業者なんだから、消費税の支払いないんでしょ。その分値下げしてくれるよね?」とか言われるんだと思うと心が痛みます。

うまくいくワケねえのは少し考えたらわかるだろ。消費税納めないでいいから消費税込みで足りるような値段付けしたてたのに、そこから消費税引かれたり、同じだけ値下げしたら地獄見るに決まってんじゃん。なんでそういうこと言うの。

▲グラフ1.売値と消費税のイメージ図

この仕事やって1000円は懐に入らないと生きていけないとして、課税事業者ABと免税事業者でもCなら今後も生きていけるんですよ。AとCはマジでギリギリでしょうけど。

問題はDの人でインボイス制度が導入されたら、このままの値段付けではダメ。課税事業者になってしまえば当然、消費税分が差っ引かれて足りないし、消費税分の値引きなんかしても同じ。どっちの道を選ぶにしろ、値上げは必須ですよね。それをお前、優位性を利用して一方的な取引を強いられるなんて、インボイス制度めー!!

……とはならないんですよ。一般的な人は。

明らかに取引先の業者が悪いでしょ。でなければ、過去の自分が悪い。

jisin.jp

そら、ホリエモンもこう言いますわ。法律で認められてた「免除」を「着服」呼ばわりとはなんだ! という気持ちはわからんでもないけど、その法律が変わるんだから、素直に従いなさいよ。という話ですからねぇ。

この話、そもそもがどちらに立つかによって変わるんですけど、そもそも1000円が懐に入ってくるようにしたいのに、本体価格を1000円未満にしてるのが正気の沙汰じゃないじゃないですか。単純に考えたらわかるんですけど、売れれば売れるだけ損します。逆に1000円で売りながら、消費税積み上げてガメてたらピンハネですよ。

thesaurus.weblio.jp

現代的には「せどりする」のほうが聞こえいいですかね?

儲け出ないほどの値段を強要されてる。って言う話なら、そこは同情できるポイントなんですよ。まあ、企業側が「この値段で仕入れないと……」って言うんなら、もうその業界自体が未来ないじゃんって感じですけど、多分、依頼かけてる企業側はそれなりに儲かってるんでしょうね。だからこそ、こういう物言いをするんでしょう?

個人事業主の皆さんは「雇われ人に個人事業主の苦労はわからない」って言うんですけど、雇われ人の皆さんは採算度外視の安価で商品を提供してライバル会社を潰すような真似には厳しい視線を向けると思いますよ。10%上乗せしないとやっていけないような値段でモノやサービスを売るなっていう話だし、それを取られたらやっていけません! って当たり前やろって話なんですよ。

で、今回のことで増税になるも何も、あなた方の売上が本体価格での売上ってことになるだけなんですよ。言ってみればこう。

▲グラフ2.インボイス適応後のイメージ

グラフ1では、課税事業者Aと免税事業者Cが同じ扱いになってました。帳簿方式の時代は実際、同じ計算になってたんですよ。免税事業者に支払った分でも控除に回すことができたので。

インボイスによってグラフ2の扱いになっただけです。免税事業者Cよりも課税事業者Aと取引したほうがお得だし、課税事業者Bと同じ扱いでしょ。

売値S円+消費税St円の売上を出した企業2社があり、α社が免税事業者からP円+Pt円で、β社が課税事業者からQ円+Qt円で仕入れたとしましょう。こうなりますよね。

α:(S+St)-(P+Pt)-St=S-P-Pt

β:(S+St)-(Q+Qt)-(St-Qt)=S-Q

で、今回の場合は課税事業者の売値Q円と免税事業者のP+Ptが一致するので……

β:S-Q=S-P-Pt

なので控除含めるとα社もβ社も同じになりますよね。

要は皆さんはPt円を控除枠として売ってただけで、最初からP円で商売してたんでしょうが。誰が考えたスキームなのかは知りませんが、ご自身でP+Pt円じゃなくて、P円+Pt円で商売されてたんなら、今までダンピングしてきたツケを払えって話ですし、立場の強い相手から「P+Pt円じゃなくて、P円+Pt円の形で受けてよ」って言われてたんなら、それは単純に取引相手が悪いんですよ。そのうえで「もともとP円に消費税Pt円載せてたんだから、インボイス登録しないならPt円はナシでしょ!」って言ってくるんなら、それはもう公正取引委員会が口出してくるレベルの案件です。

www.jftc.go.jp

大体、おかしいじゃないですか。普段、労働力を安く買い叩くのをやめろって大騒ぎしていた人たちが帳簿方式を維持しようとしている。考えてください。あなたが免税事業者で帳簿方式で払った消費税を控除に回しつつ、消費税込みでギリギリ利益が出るラインにまで下げられたんですよね。もちろん、企業の性根が腐ってるのはもちろんなんですけど、帳簿方式がそれを許してたんですよ。

これからその制度がなくなるんだから、「いやいやいやいや、今までは免税事業者だったから6600円で受けてたけど、我々もインボイス登録して課税事業者なんでね。6600円に消費税分上乗せしていただかないと、商売になりませんよ」ってだけの話じゃないですか。

え? それができたら苦労しない?

またまた、ご冗談を。声優さんの中にも「インボイス登録をキャンセルよう!」って息巻いてた人いらっしゃいましたよ?

まあ「これで、増税できなくてザマアミロだ」みたいな感じのノリだったのが引っかかりますけど。別にあなたが免税事業者のままでも、あなたに仕事依頼する業者があなたに払った消費税で控除受けられなくなるだけなので、実質的な増税はなされますよ。インボイス登録したあなたと企業が手を合わせて収めるか、企業が丸かぶりするかの違いでしかないですからね。冒頭のサンプルで考えるなら、あなたで一回税金の計算が途切れるのでむしろ登録したときより増えるかも知れない。

これ読んだ人の中には「お前は何もわかってない」ってブチ切れてる人もいるでしょう。正直、僕も別に税制に詳しいわけじゃないし、個人事業主の皆さまみたいに一生懸命勉強したわけじゃあない。マジメに税金の話してる人たちが絶対に指摘する経過措置の話とか組み込んでないですからね。別に僕は反対派の論理の誤りを指摘してやろうだとか、正しい税の理解を進めようだとかそういう崇高な精神はありません。

「ただ、君らの言い分を素直に解釈するとこうなるよ」ってだけです。

もしも、僕の考えが間違ってるんだったら、それは単純に反対派が持ち出した論理展開がそもそも間違っているという話ですよ。だから最初に言いましたよね。自爆してるとしか思えないって。