虚木零児の仮説置き場

虚木零児が他人の行動に仮説を立てるブログ

ネタバレで読めなくなる名作ミステリはありうるのか?

虚木零児です。

最近、いくつか海外のミステリを読んだんですよ。なぜかと言えば、急に活字を読みたい熱が高まってきたからで、なぜ急にそんな気持ちになったかと言うと……季節が季節だからですかね。

別にミステリのファンってほどじゃないんで、どれを読んだとか、どのシリーズが好きだとかそういう話はしません。「紹介文で気になったものを読んだらミステリだった」ぐらいの感覚ですね。

ただ、ミステリにおける不可解な事件があって探偵役が調べて回る内に謎が解けて、真相が明らかになるっていう構図は結構、好きなんですよね。自分で考えて事件の真相に近づこうとは露ほども思わないけれど、隠されていた真実がきれいに証明されていくのは読んでいて、見ていて気持ちがいい。

まあ、そういう人間ということを踏まえた上で読んでほしいんですけど、ミステリって「犯人がわかってた状態で読んでも、やっぱり面白いよね」という話です。

ミステリの犯人を伝えるのは七つある大罪の一つに数えられる(注:ない)ほど、許されざる行為ではあるんですが、別に僕はあまり気にしないんですよ。

というのも、ミステリって説得力がないと面白くないと感じる派なので。「念動力で手を離れた位置にある物を動かせるあなたが犯人です!」って言うと難色を示す人もいるんですけど、例えば、

  • その人が念動力を持っていることが前々からわかっていて
  • その人以外の念動力者にはできない

ことが証明できていれば、十分だと思うんですよね。もちろん、本当に小説にしようとしたら逮捕したところで司法で証明できないので裁けないだとか、そもそも証拠がないから逮捕状がでないだとか、現実味のある問題が出てくると思います。ただまあ、ミステリは犯人が逮捕されてなければいけないものでもないし、裁かれなければいけないものでもない*1と思っているので別にそこはストーリーの転がし方でどうにでもなると思うんですよ。例えば、「探偵役が誇らしげに謎を明かしたものの、最後は念動力者に始末されて、犯人を問題する人は誰もいなくなった」とかね。

逆に、探偵役が明晰な頭脳で「犯人はあなたです!」って言ったからって、読者や視聴者の知る由もないところで手に入れた手がかりから謎が解かれたら、ちょっと興醒めしてしまう。新しい事実がわかったら、同じタイミングで知りたいし、内容は知らされないまでも、今までわかっていなかったことが明らかになったことで、盤面がひっくり返ったよということは知りたい。真面目に考えこんでいる訳ではないが(たぶん、この辺の人かなー)と思ってる所に、影も形もなかった新事実をブチ込まれて、別の人が犯人でした! とやられても、知らねえよ! ってなる。

僕が望んでいるのは「そこかしこにある欠片を繋ぎ合わせると犯人の犯行を示す」ものであって、それは「奇抜な技法やトリック、意外な真相」である必要はないんですね。ただ流石にエンタメで見てるんで、血まみれの被害者の側に血のついたナイフを持った男がいました。それが犯人です。とかだと、ちょっと工夫してくれ。とは思ってしまいますが。厄介な客ですみません。

逆に言えば、犯人がわかった状況で振り返ったら、「あ、あの時か!」ぐらいが理想と思っている。コナンくんあたりでありませんでしたっけ、「血まみれの人を見て警察だけ呼んだのはどうして?」っていうヤツ。僕らは読者なんで(多分死んでいるだろう)という思い込みがあるんで分かりづらい所ですが、劇中の人々は知る由もないはずで死んでいるかいないかわからない状態のハズなのに、まるで死んでいるのがわかっているかのように行動している訳で確かにおかしい。

逆に言えば、犯人がネタバレされると面白くなくなるというのは、こういう振り返り中の発見が重視されていないという可能性がでてくる訳です。先刻言った通り、僕はあっと驚く最後である必要はなく、納得できるラストであればそれでいいので、実は黙っていたけど裏でこんな出来事が……ってされると白けてしまう。

ただ幸運なことに、世間的に名作とか言われてるようなもので、そういう理不尽な騙し討ちを見たことがないんですよね。まあ、ドイツ○○賞受賞って言われても、それがどれほど凄いものなのかは全くわかってないんですけど、それでもやっぱり、少なくともある範囲の人には評価されているワケで。……彼らから見た海外である、日本で翻訳出版されている時点である程度の質は保証されている説もありますが。

まあ「だからネタバレしていいか」と言えば、そうでもないとは思います。面白さの質が変わってしまう感覚はあるんですよね。例えば、犯人が誰かわからないという閉鎖的な状況での(これから、どうなるんだろう)というサスペンスは味わえなくなってしまう。「まだ死なないな、犯人目の前にいるし」とか「あ、犯人の姿が消えた、今殺してるところか、じゃあアイツが死んだのかな?」とか思いながら見たいかと言われると……うーん?

そういう意味ではわざわざ人の耳元でネタバレするのはどうかと思う。でも、だからといって興味ある人が覗き見るためのAmazonのレビューで一切のネタバレはやめろとケチをつけているのを見ると、鬱陶しいなと思ってしまう。この辺、多種多様な考え方をもつそれぞれが妥協点を見つけられたらいいなぁ……などと思います。

くれぐれも社会的合意なるもので、他者が排斥されることがありませんように。

*1:そういうのは勧善懲悪ものの条件であって、ミステリの条件ではない